芋文庫

推し本

土地

人それぞれ、生まれ、育った土地があります。

その土地との深い関わり。

 

土と日本人  山下惣一(1936~2022)


昭和11年佐賀県唐津市の農家に長男として生まれ、生涯農業を続けた山下惣一

昭和59年、彼は自身の作った米の異常に気づきます。

戦後、国の農業政策に翻弄されてきた日本の農業。

"土を作る"とはどういうことか。農業の実情を、当事者の農家が語る一冊。

知らなかった事ばかりですが、消費者として、農業の事をもっと考えて行かなければ、と思いました。

 

水神  上・下   帚木蓬生(1947~ )

舞台は江戸時代初めの久留米藩領。

大河、筑後川のそばにありながら、水不足に苦しむ台地に住む農民たち。

なんとか水を確保しようと、5人の庄屋が文字どうり"決死の覚悟"で藩に堰づくりを願い出ます。

川から人力で水を汲む"打桶"の仕事をする、元助の目を通じて描かれる一大土木事業。

生れた土地で生きていくしかない、農民たちの未来を変えようとする姿に感動。

この小説は史実に基づいています。

 

ノリソダ 騒動記  杉浦明平(1913~2001)

愛知県渥美町で、戦後間もない頃おこった、ノリソダ(海苔の着生する粗朶)をめぐる騒動。

当時、共産党員だった著者が、この地での漁業権に関して、土地のボスたちと対峙。

逆に、相手方から訴えられた裁判を通じて、そこに登場する人々を生き生きと描きます。

ルポルタージュ文学の先駆的作品。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フランス

近代フランス史のこぼれ話、南仏に移住したイギリス人、ちょっと変わった小説。

 

馬車が買いたい!  鹿島茂(1949~ )

近代フランスの歴史をいつもおもしろく読ませてくれる、フランス文学者、鹿島茂

この本は彼の処女作。

19世紀のフランス文学。バルザックフロベールスタンダールらの作品に出てくる、上昇志向の強い登場人物たち。

パリでの成功を目指す彼らが、最終的に欲しかったのは、"馬車"だった。

当時の住居、衣服、食生活事情を踏まえて考える、ステイタスとしての"馬車"の意味。

日常生活の細部の意味がわかれば、近代フランス文学は、さらに面白くなります。

 

南仏プロヴァンスの12か月 

ピーター・メイル(1939~2018)

80年代、忙しい広告会社の仕事を辞め、大好きなフランス、プロヴァンス地方に移住したイギリス人、ピーター・メイル

彼は、ユーモアたっぷりの文章で愛すべきプロヴァンスの人たちを描きます。

この本は、出版当時、かなり話題になりました。

実際にそこで暮らしてみて、初めて分かる、その土地の気候、風土そして住民たち。

慣れない事もあるけれど、彼にとっては、何にも代えがたく、すばらしいプロヴァンスの日々。

 

ぼくのともだち  エマニュエル・ボーヴ(1898~1945)

1920年代にフランスで発表された本書。

主人公ヴィクトールは、妄想癖があり、自意識過剰な臆病者。

孤独を苦にする彼は、ともだち(自分に興味をもってくれる人)を切望します。

結局は、自分のバカげた行動でともだちづくりに失敗。

そんなダメダメな姿にあきれながらも、どこか自分にも通じるものが・・・

不思議な読後感の作品。100年前のものですが、なんだか今っぽい気もします。

 

 

 

 

語学

語学の習得の方法は人それぞれ。

目的もその言語での自らの表現活動、現地の人々とのコミュニケーションのためなどいろいろです。一方で、外国の思い出の品にその国の言葉を見るだけで嬉しかったり。

 

千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、ルーマニア語の小説家になった話                                 済東鉄腸(1992~ )

作者がもともと語学オタクだったとはいえ、日本語の参考書などほとんどない”ルーマニア語"をFacebookTwitterを駆使して習得していく様子は驚異的。

映画をきっかけにルーマニアに興味を持ち、今ではルーマニア語で自分の考えを発信。

その勢いには圧倒されます。

彼が以前、"はてなブログ"をやっていたのには親近感を持ちました。

 

語学の天才まで1億光年  高野秀行(1966~ )

ノンフィクション作家の高野秀行が、自身の"探検"に必要で学んできた言語について、それぞれの学習方法や現地での実践について語ります。

フランス語、スペイン語、中国語から特定の民族の間でしか話されない民族語まで。

"言語はあくまで道具"と言いながらも、現地の人たちとの対話を通じて模索を続ける著者。

様々な言語に出合ってきた彼ならではの"言語のノリ"や"方言"の解釈にはなるほど、と共感。

 

外国語の遊園地  黒田龍之介(1964~ )

スラブ語学者の黒田龍之介。彼が日頃から愛用している、外国語にちなんだ"もの"についてのエッセイ集。

"紙もの"の好きな彼は、外国で出会ったレシート、ラベルなども大切にして、そこにある"文字"を楽しんでいます。

それを手に入れた時の思い出と一緒に"もの"が語りかけてくるようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体験

どんなに情報を集めるよりも、実際にやってみる方が理解が早い。体験談を聞くのは面白いし、説得力があります。

 

大江戸生活体験事情

       石川英輔(1933~ )  

       田中優子(1952~ )

江戸文化の研究者である2人が実際に江戸時代の暮らしのいくつかを体験。

江戸時代のこよみ、時間で生活してみる、火打石で火をおこす、などなど。

実際にやると、難しいこともあれば、案外便利で楽しいものも。

江戸時代と現在のエネルギー消費も比べながら、これからの私たちの暮らしを考えます。

 

闇と暮らす  中野純(1961~ )

夜の闇をこよなく愛する体験作家、中野純

夜の闇とは縁遠くなった私たちの生活。

しかし、本当の夜の闇の中では五感が研ぎ澄まされてくる。

そんな感覚を楽しむため、ナイトハイクを続ける著者。

いきなりの闇歩きは難しいけれど、身近なところで闇体験、チャレンジしてみたいです。

 

出セイカツ記  ワクサカソウヘイ(1983~ )

現代社会では、なんらかの不安を抱えている人は多いと思います。

お金がなくなったら、仕事が減ったら、食べ物に困ったらどうしよう・・・

著者は、知り合いに勧められて草を食べた事をきっかけに、磯で生活、不食に挑戦、石や泥団子の販売と様々な実験をして、不安に対峙していきます。

そんな体験を通じて彼の不安の感じ方も変わります。

 

 

挿絵

挿絵がいいな、と思った3冊。

気がついたらどれも日本のじゃありませんでした。

 

ぼくの伯父さん

    ジャン=クロード・カリエール(1928~2021)

1958年に製作された、ジャック・タチ監督のフランス映画"ぼくの伯父さん"の小説版です。

著者はタチの弟子、ジャン=クロード・カリエール。

以前、映画を見た時はピンと来なかったのですが、"ぼく"の目を通した大人の姿を描いたこの本は、それぞれの心情もよくわかり、面白かったです。

特に、ピエール・エテックスの挿絵がおしゃれで素敵!

映画ももう一度見てみたいです。

 

博物誌  ジュール・ルナール(1864~1910)

フランスの小説家、ルナールが身近な生き物たちを親しみこめて表現した作品。

彼の観察眼と、ユーモアたっぷりの文章はさすがです。

何冊か訳本があるようですが、ここで紹介する2冊。

ひとつは岸田國士訳で挿絵がボナール。もうひとつは辻昶訳で挿絵がロートレック

当時、活躍していた2人の画家の仕事をこんな形で楽しめるなんて、幸せなことです。

 

ロザリーのひみつ指令

           イザベル・アルスノー(絵)

      ティモテ・ド・フォンベル(作)

第二次世界大戦中のイギリス。出征した父の帰りを母と二人で待つ5歳の少女、ロザリーのお話。

これは"挿絵"ではなく"絵本"ですが、文章にそった絵がすばらしいです。

話はロザリーの独白で進みますが、子供向け?とは思えない展開。

その時代の空気を表現した絵に、込められた意味を考えます。

 

 

 

 

 

懐かしい暮らし

"なつかしい"という感覚がどうしてこんなに心地いいのか?そんなことを考えた3冊です。

 

明治博多往来図絵  祝部至善(1882~1974)

明治時代の福岡、博多に生れ育った祝部至善。若い頃、絵を学んでいた彼は、70歳を過ぎてから、明治の博多の風俗画を書き始めます。

かつて、博多の往来で見られた様々な触れ売り、辻芸人やその口上に年中行事。着ているものや髪型で、その人の身分や職業が分かった時代。

絵はもちろん良いのですが、当時のことを本当に細かく、良く憶えているのに驚きます。それだけ子供の頃に見た光景は、心に残るものだったのでしょう。

 

いずみさん、とっておいてはどうですか

        高野文子(1957~ )

昭和30年代の東京で少女期を過ごした姉妹の日記、人形やおもちゃ類。

そこに、どこか自分の記憶にもつながるものを感じた高野文子と"昭和の暮らし博物館"の人たち。

彼女たちは、それらを間近で見て、手にとったり出来るように工夫して展示します。

私よりちょっと上の世代の物ですが、見るとジワッと懐かしさがこみ上げます。古い物だけど、とても生き生きとした感じがするのです。

自分たちの使っていたものを、こんなに丁寧に長い間とっておくのって、かなり難しいことだと思います。

 

棒がいっぽん  高野文子(1957~ )

上と同じ、漫画家高野文子の作品集。多くの評論家から様々に解釈される高野文子
の作品。
中でも"美しき町"と"バスで四時に"は昭和の暮らしの1ページを切り取ったもの。

彼女の絵の中で、昭和をどっぷり感じ、主人公の心情にも近づけるようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

椅子

椅子好きです。

お店で、美術館で、その他いろんな所で、"あの椅子いいなぁ"と思うと出来れば触って、座ってみたい!

 

美しい椅子 全5巻  島崎信(1956~ )

"名作椅子"と呼ばれる椅子があります。1940~1960年頃に作られた北欧のものが多いのですが、著名なデザイナーによる椅子も。

見てるだけでも楽しいけれど、機会があれば座ってみたいものです。

"名作"ならではの座り心地、実感したい。

 

名作椅子の解体新書  西川栄明 坂本茂

名作椅子を解体。そうすると椅子の構造がとてもよく解ります。

木の骨格部、籐やペーパーコードで織られた座面。

洗って、削って、汚れを落とし、塗装して、椅子は生まれ変わります。

 

木のこころ  ジョージ・ナカシマ(1905~1990)

この本は、表紙にタイトルがありませんでした。

ジョージ・ナカシマの椅子は、大きいけれど繊細で、やさしい。

彼は、木工家として、職人でもあった人。

アメリカ生まれの日系2世。フランス、日本、インドで建築の仕事を経験し、戦後、アメリカのニューホープで家具作りをはじめます。

"上品で有用な美しさをそなえもつデザインを導き出すために"仕事をする彼の思想は詩的で、それは作品からも感じられます。